高松高等裁判所 昭和28年(う)234号 判決
記録を精査するに、原審第六回公判の際公判廷で被告人岡本薫の主任弁護人梅田鶴吉から証人及び参考人の捜査時における供述に変化があるのでその変化により供述の真実性について立証する為に検察官保管にかかる参考人の検察事務官、司法警察員、司法巡査に対する供述調書全部について証拠調の請求があつたことは原審第六回公判調書により明かであつて、この請求に対しその採否を保留のまま、何等の決定を為さずして結審し判決の言渡しをしていることは右第六回公判調書及びその後の公判調書により認められる。
しかし刑事訴訟法第三〇〇条により検察官に証拠調請求の義務ある書面は同法第三二一条第一項第二号後段により証拠とすることができる書面即ち検察官の面前における供述を録取した書面であることを要するところ、前示梅田弁護人の請求にかかる供述調書はいずれも検察官の面前における供述調書でないから、検察官に証拠調請求の義務ありとは云えない。従て原審が弁護人の請求を採用しなかつても違法とは云えない。唯原審は之が採否の決定をしない儘証拠調を終了したものであるけれども証拠調の終了に際し弁護人からこの点について異議を述べた形跡は毫も窺えないから原審は右請求を却下したものと認めるのが相当である。従つて原審に於けるこの程度の瑕疵は未だ以てその訴訟手続に法令の違反があるものとは云へないから論旨は結局採用できない。